Sweet Season

会社の年上上司との秘密の恋

あれからのこと③

電車を降りてタクシーで指定された場所に行った。


「迎えに行けなくてごめんな。
この時間なら大丈夫だから〇〇〇号室にきて」


彼は病院に入院していた。
豪華な個室で驚いた。


「kiyo、こっちにきてここに座って」


恐る恐る近づいて椅子に座ろうとしたら、それと同時に上半身を起こした彼が私の手を取ってそのまま抱きしめられた。


「kiyo、ほんとごめん。やっと会えた。ほんとうにごめんね。」


「うん、うん。。」
そう言いながら涙がまた止まらなくて。
久しぶりの彼の顔もまともに見られていないのに。彼も泣いていたのかも。
一通り泣いて、頭を上げると、彼の足がギブスを付けていて吊り下げられているのが見えた。


「一体何があったの?」


そこから彼は話し始めてくれた。


あの日、出張に行った日、向こうの空港からオフィスへ向かう途中に交通事故にあったこと。かなり大きな事故だったこと。1ヶ月以上も意識が戻らず、ずっと集中治療室にいたこと。足が複雑骨折をしていたこと。携帯電話が事故の衝撃で壊れてしまい、意識が戻ってもすぐに連絡する手段がなかったこと。集中治療室から出て、容態が安定したため、2週間前に日本に帰国して足の手術を受けたこと。まだ1ヶ月ぐらいは入院しなくてはいけないこと。


そんなことだった。


あまりに衝撃的な出来事だったので、大まかな事しか理解できなかった。


こんなことってあるんだ、ドラマの話みたい。


混乱しつつもどこか遠くで冷静に話を聞いていた自分もいたような気もする。



「この状況になって、初めて気づいた。
俺、kiyoのことを愛してる、大切にしていると思っていたけど、結局は何もしてやれていなかったんだなって。いきなり連絡がなくなってどれだけ心配していただろうと思うと。本当にごめんな。これからは何があってもちゃんとkiyoに連絡がいくようにするつもりだから。」


「うん。不安だったし、恨みそうにもなった。結局遊びだったんだとも思った。でもこうして帰って来てくれてありがとう。」


これが12月の下旬の話。


そこからは以前のように毎日欠かさず連絡がきて、誰もいない時間に病院に会いにいったり、病院内のレストランで食事をしたり。そしてちょうどコロナ禍が騒がれ始めた頃に退院できました。彼の奥様は入院と手術の説明の時しか病院には来られなかったそうです。
面倒はみたくないと。


そして退院後、彼は奥様とは別居することになり、会社からほど近いマンションに一人で住むことに。私が来やすいようにと選んでくれた場所。


なのにまだ私は彼を受け入れられないでいる。


手をつなぐこともキスをすることもハグをすることも受け入れられるのに、どうしてもその先に進みそうになると苦しくなってしまう。


また彼が突然いなくなってしまうんじゃないのかという不安と、どうしてあの時なんとかして連絡をくれなかったのかという自分勝手に彼を責めたくなる気持ち。
男性って結局は身体目当てなんじゃないの?と疑ってしまう気持ち。
彼は何も言わず待っていてくれているのに。


ひどいよね。ごめんね。って分かってはいるんだけど。。
心がついていかない。



でもそろそろ、はぐらかすだけでなく、ちゃんと伝えなくちゃ。

あれからのこと②

なんとか涙を堪えて勤務先の駅で降りた。
既読にしてしまったから何か返信をしなくてと焦る気持ちはあるのになんて書けばいいのか分からない。


「お久しぶりです。元気です。」


それが精いっぱいだった。


既読になったと同時に電話がかかってきた。
反射的に出てしまう。


「もしもし・・・」


「kiyo、ごめん。心配したよね。実は・・・」


「ごめんなさい。今とっても動揺していて何も言葉が出てこない。聞きたいことはいっぱいあるのに。これから仕事だから落ち着かなきゃいけないのに。」


「そうだよな。まずはちゃんと会って話したい。kiyoはいつなら時間とれる?
俺が行けるといいんだけど、ちょっと遠くまで来てもらわないといけないんだ。
電話に出てくれてありがとう。声を聞いてホッとした。仕事が終わったら連絡して。」


「うん。分かった。」


これは夢?と思いながら会社までの道を歩く。


ちょっと遠くまで来てもらわないといけないってどういうことなんだろう?


遠くってどのぐらい?


一体なにがあったの?


考え出すときりがなくて、私は会社に急で申し訳ありませんが、休ませて下さいと連絡を入れ、そして彼に電話をかけていた。


「どうした?なんかあったか?」


携帯の向こうから聞こえる彼の声は以前と何も変わらない。
私が急に電話をかけるといつも何かあったのかと心配してくれるのも。
また涙が溢れてきた。


「会いたい」


彼から告げられた場所は電車で40分ぐらいかかる場所。詳しい話は会ってからと言われたけれど、その場所にいるということが、今彼は普通の状態ではないということ。
連絡が来た驚きと、嬉しさと、そして若干の怒りとが入り混じっていた私の気持ちは一気に不安だらけになった。


会いたい。
でも怖い。

あれからのこと

尊敬しているブロガーさんが記事を更新された。
やっぱり彼女は強い人だった。
でも私はどうしても同じ女性としての気持ちで読んでしまうから、もしかしたらひどい事をコメントに書いてしまったかもしれなくて。
傷つけてしまったなら本当にごめんなさい。


今の私は彼とまた一緒にいられるようになった。
でも自分の心の中にはまだすっきりしない部分が残っていて、どうしても辛かった時のことがフラッシュバックしてしまい、彼を信じることができないでいる。
彼は私が心から受け入れてくれるまで待つから。信頼を回復できるように頑張るからkiyoは気にしなくていいんだよと言ってくれるのに。
気持ちのままに受け入れてしまえば楽になるのかもしれない。で
もそれがどうしてもできない。


私もあのブロガーさんのように書くことで前に進めるかもしれない。
整理しながら書いてみようと思う。




彼との連絡が急に途絶え、数か月間の途方に暮れた日々。
私が何かしてしまったのか?彼にとって私はそれだけの存在だったの?と自問自答を繰り返すも、何も答えは見つからず、彼の消息すら掴むことができなかった。


仕事で繋がりのあった人に聞けばよかったのかもしれないけど、その時の私はそこまでする気力もなかった。尊敬するブロガーさんにはメールは送ってもいいんだよと言われたけれど、送って返信がこないことも既読にならないことも怖かったし、感情的な文章を送りつけてしまいそうな自分を抑えるのが必死だった。


本当にこのまま終わりなのかも。


12月の彼の誕生日におめでとうのメッセージを送って、それで返信がなければ
私も覚悟を決めよう。


そう思っていた。


お誕生日を数日後に控えたある日、私がいつも出勤する時間に合わせたかの
ようにLINEのアイコンに①という数字がついた。


電車にのってから画面を開くとそこには・・・


「kiyo、元気か?連絡できなくてごめん。電話で話せないかな?」


電車の中ということも忘れて、思わず「うそっ」と声が出た。


そして気が付くと涙がこぼれていた。